2010年02月12日
「消えた魔球」夏目房之介 【ブックレビュー01】
「Number」に連載されていた『スポーツ漫画学』という連載を収録した一冊。
スポ根マンガがいかに終焉していったか、という命題を評論するという形を取っているが、気楽に「こんなマンガあったんだぁ」くらいの感じで読み進められる一冊。
この作品を読むと、ある特定の競技で先駆的な作品には荒唐無稽なものが多いということがよくわかる。
今日たまたま、アメトークで「キャプテン翼」芸人をやっていたが、やはり先駆的な作品には今となってはかなり無理な設定が多い。
まあ、読んでいる当時はそうは思わないのだが…。
このブログはサッカーファンが多いと思うのでサッカーを例にとるが、「キャプテン翼」という作品と現在連載されているような作品では現実性に大きな違いがある。
キャプテン翼のあと「シュート!」という作品では、すでに現実性に乏しい技は消滅しているし、さらに現在の「ジャイアントキリング」を見ると、サッカーとしての関心事項がプレー以外にも広がっているなと感じる作品になっている。
こうした流れは野球にも通じていて、「巨人の星」→「ドカベン」→「タッチ」と続く、野球マンガのヒット作品を並べると、やはり荒唐無稽な作品から現実性を増した作品へ、さらに恋愛という野球以外の要素を取り込んだ作品へと変遷している。
余談だが、現実性に乏しい『魔球』といった手法ではなく『キャラクター』にアクセントを作った「ドカベン」は中間期においては絶妙の設定だったとあらためて感じる。
さらにもう一つ言えば時代背景はやはり反映されるものだな、ということ。
「消えた魔球」では冒頭から野球マンガの話が続くが、やはり野球という競技が国民的スポーツとして発展した背景が窺える。「あしたのジョー」や「サインはV」といった作品も、競技がメジャーになればおのずと現れてくる。
そう考えると「SLAM DUNK」ならびに「キャプテン翼」という作品が、例外的な作品だとわかる。
どちらかといえば、「マンガに影響されてスポーツが流行する」という形の二作品ではないかと思う。
もちろん競技として知ってはいても、やる習慣・見る習慣がないスポーツマンガはなかなか浸透しにくい。
その中でストーリーやキャラクター設定などで、多くの読者を惹きつけるのは至難の業に思う。
まあ、難しく書いてはみたが、本当に気楽に読める本である。
特に戦後間もない野球マンガの『魔球』は、スカイラブハリケーン以上に突っ込みどころ満載である。
手に入れば「消えた魔球」、ぜひ読んでみてほしい一冊である。
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